自然と人間との調和が乱れたとき、
ジャングルの奥地から “それ” はあらわれる。
「神の食物」
テオブロマ・カカオ
はるか昔、アマゾンの森に暮らす民は、
“その種” を、醸し、焼き、摩砕し、
香草、唐土と、水に治め、息吹かせる
いにしへ の 薬
“それ” を、先祖に捧げ、自らに治めていた。
“その種” は北へ、南へ、運ばれ、
ある文明の王の手に。
文明は “それ” を、儀式に用い、不老長寿の薬とす。
王は大盃を次から次へと体に流し込み、
自らに治め、国を治めた。
海の向こうから大船がやってきた。
文明は滅び、”その種” は大海を越え、
東の帝国の王たちの手に渡った。
王たちは “それ” を門外不出とし、
媚薬に、晩餐会に、政治の席に召し、
“それ” は 権力の象徴となった。
東の帝国は産業を機械化し、
民が労働を強いられている頃、
“それ” は、形を変え、固形になり、
新たな活力源として民の手に渡った。
より多くの “それ” を欲し、東の帝国は、
南の大陸を武力で支配し、
南の民に労働を強い、
生きる土地は焼かれ、
“その種” の巨大農場と化した。
東の帝国の者達は、
“その種” を世界中に持ち出し、
アマゾンの森の奥地にあった
いにしへ の 薬 は、形を、意を変え、
この星にいきる、おおくの民の手に渡った。